3.5. 病理組織検査 (Histopathology)
顕微鏡検査の中では最も侵襲的ですが、皮膚病の確定診断において最も信頼性の高い検査です。皮膚の一部を外科的に採取し、組織の構造変化や細胞の配列、炎症のパターンなどを詳細に評価します。
目的: 腫瘍の確定診断、自己免疫性皮膚病、アレルギー性皮膚炎における組織学的変化の評価、原因不明の難治性皮膚病の診断。
手技:
1. 局所麻酔または全身麻酔下で、病変部を含めて皮膚の一部を外科的に切除します。
パンチ生検: 専用の皮膚パンチ(直径4~8mm)を用いて円形に組織を採取する方法。
切除生検: 紡錘形に病変全体を切除する方法。
切開生検: 腫瘤の一部を切除する方法。
2. 採取した組織をホルマリン溶液で固定し、病理検査室に送ります。
3. 検査室では、固定された組織をパラフィンブロックに包埋し、ミクロトームで薄切(数マイクロメートル)します。
4. 薄切片をスライドガラスに貼り付け、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を施し、病理専門医が顕微鏡で観察します。必要に応じて特殊染色や免疫組織化学染色も行われます。
観察点: 表皮、真皮、皮下組織の構造変化、炎症細胞の浸潤パターン、毛包、皮脂腺、汗腺などの付属器の変化、腫瘍細胞の浸潤や異型性などを総合的に評価します。
3.6. その他の培養検査 (真菌培養、細菌培養)
顕微鏡検査で病原体が疑われた場合や、より正確な菌種同定と薬剤感受性試験が必要な場合に実施されます。
真菌培養: 皮膚糸状菌症が疑われる場合、毛やフケを採取して専用の培地(DTM: Dermatophyte Test Mediumなど)に培養し、菌の発育と色調変化、顕微鏡による分生子の形態観察で菌種を同定します。
細菌培養および薬剤感受性試験: 細菌感染(特に難治性膿皮症や深部膿皮症)が疑われる場合、綿棒や針吸引で採取した検体を培養し、菌種を特定するとともに、どの抗生剤が最も効果的か(感受性)を調べます。これにより、適切な抗生剤の選択が可能となり、耐性菌の発生を抑制することにも繋がります。
これらの検査法は、それぞれ異なる目的と利点・欠点を持っています。獣医師は、犬の臨床症状、病歴、病変の部位や性質に基づいて、最適な顕微鏡検査法を選択し、複数の検査を組み合わせて診断を進めていくことになります。
4. 顕微鏡検査で何がわかるのか?:主要な病原体と病態の検出
顕微鏡検査は、肉眼では捉えられない皮膚の微細な世界を明らかにし、犬の皮膚病の原因を特定する上で非常に具体的な情報を提供します。ここでは、顕微鏡検査によって検出される主要な病原体や細胞学的所見から診断される病態について詳述します。
4.1. 寄生虫性皮膚病
寄生虫の直接検出は、寄生虫性皮膚病の確定診断に不可欠です。
4.1.1. ニキビダニ症 (Demodicosis)
検出法: 深部皮膚掻爬検査が最も有効です。毛包虫は毛包内に生息するため、皮膚をしっかり圧迫して毛包内容物を押し出しながら深く掻爬することが重要です。
顕微鏡所見: 葉巻状の細長い体型が特徴の「ニキビダニ(Demodex canis)」や、その卵、幼虫、若虫が観察されます。体長は約250~300µmで、体節があり、8本の短い脚を持つのが特徴です。
臨床的意義: ニキビダニの検出は、ニキビダニ症の確定診断となります。ただし、少数のダニは健康な犬にも見られることがありますが、多数のダニ、特に幼若なステージ(卵、幼虫、若虫)が検出される場合は、臨床的に意義が高いと判断されます。
4.1.2. 疥癬 (Sarcoptic Mange)
検出法: 表層皮膚掻爬検査が用いられます。疥癬ダニは表皮内にトンネルを掘って生息するため、広範囲を軽く掻爬し、多くの検体を採取することが検出率を高める鍵となります。
顕微鏡所見: 丸くて短い楕円形の体型で、長い毛(剛毛)を持たない8本の脚が特徴の「疥癬ダニ(Sarcoptes scabiei)」が観察されます。体長は約200~400µmで、背面に多数の突起を持ちます。しかし、疥癬ダニは皮膚内に少数しか生息しないことが多いため、掻爬検査での検出率は50%程度と低く、臨床症状や痒みの特徴(耳介の掻爬反射、激しい痒み)から治療的診断を行うことも一般的です。
臨床的意義: 疥癬ダニの検出は確定診断となりますが、検出されなくても疥癬を完全に否定することはできません。
4.1.3. その他の外部寄生虫
ツメダニ症 (Cheyletiellosis): 表層皮膚掻爬検査やテープストリップ検査で、「歩くフケ」として知られる「ツメダニ(Cheyletiella spp.)」が検出されます。大きな口器の鉤状突起(Palpal claws)が特徴です。
ノミの糞: テープストリップ検査や濡れたティッシュペーパーで病変を拭き取った際に、黒い点状のノミの糞が検出されることがあります。水に濡らすと赤褐色に溶け出すことで鑑別できます。ノミ自体が検出されることもありますが、多くの場合、糞から存在が示唆されます。
4.2. 細菌性皮膚病 (膿皮症)
犬の皮膚病で最も頻繁に診断される疾患の一つです。
4.2.1. ブドウ球菌 (Staphylococcus pseudintermedius)
検出法: テープストリップ検査、印圧塗抹検査、スワブ検査が主に使用されます。膿疱の内容物や湿潤な病変から直接採取します。
顕微鏡所見: ディフクイック染色などのライトギムザ系染色で、グラム陽性を示す紫色に染色された「球菌」が観察されます。特徴的なのは、ブドウの房状に集まった形態や、細胞内(好中球に貪食された状態)に多数存在することです。好中球が多数観察され、その細胞内に球菌が認められる「貪食像」は、活動性の細菌感染を示す重要な所見です。
臨床的意義: 貪食像を伴う多数の球菌の検出は、細菌性膿皮症の確定診断につながります。しかし、皮膚常在菌であるため、少数の細胞外の球菌は必ずしも臨床的意義があるとは限りません。
4.2.2. その他の細菌
桿菌: 稀にPseudomonas aeruginosaなどのグラム陰性桿菌感染が検出されることがあります。これらは細長い棒状の形態をしており、細胞内寄生を伴う場合、難治性の感染や緑膿菌による耳炎などで認められます。桿菌が多数認められる場合は、細菌培養と薬剤感受性試験を検討する必要があります。
4.3. 真菌性皮膚病
酵母菌と皮膚糸状菌の二つが主要な原因です。
4.3.1. マラセチア性皮膚炎 (Malassezia Dermatitis)
検出法: テープストリップ検査、印圧塗抹検査、スワブ検査が有効です。特に皮膚のシワの間、耳道、指間など湿潤で温暖な部位に多く見られます。
顕微鏡所見: ピーナッツ型、足跡型、あるいは雪だるま型と表現される特徴的な形態を持つ「マラセチア(Malassezia pachydermatis)」酵母菌が観察されます。ディフクイック染色で青紫色に染色されます。好中球や角化細胞とともに多数のマラセチアが検出される場合、痒みや炎症の原因となっている可能性が高いです。
臨床的意義: 多数のマラセチア酵母菌の検出は、マラセチア性皮膚炎の診断につながります。健康な犬の皮膚にも少数存在する常在菌であるため、臨床症状との整合性が重要です。
4.3.2. 皮膚糸状菌症 (Dermatophytosis)
検出法: 抜毛検査(トリコグラム)が最も有用です。ウッド灯で蛍光を発する毛(Microsporum canisの一部)を優先的に採取し、ミネラルオイルを滴下してカバーガラスをかけ、顕微鏡で観察します。真菌培養も併用されます。
顕微鏡所見: 抜毛の毛幹や毛根部に、真菌の「菌糸(hyphae)」や「分生子(spores)」が観察されます。特に毛の周囲に胞子が鞘のように取り巻いている状態(ectothrix spores)が特徴的です。
臨床的意義: 真菌の菌糸や胞子の検出は皮膚糸状菌症の確定診断となります。ただし、培養の方が検出感度が高い場合があります。
4.4. 炎症性・免疫介在性皮膚病
細胞診では、炎症の種類(化膿性、肉芽腫性、好酸球性など)を評価できます。
検出法: 印圧塗抹検査、スワブ検査、針吸引生検。
顕微鏡所見:
好中球優位: 細菌感染(膿皮症)、壊死性病変。
マクロファージ、類上皮細胞、多核巨細胞優位: 肉芽腫性炎症(深部真菌症、異物反応、非定型マイコバクテリウム症など)。
好酸球優位: アレルギー性皮膚炎、寄生虫感染、好酸球性プラーク、昆虫過敏症など。好酸球はアレルギー反応や寄生虫感染で増加する特徴的な細胞で、細胞質に赤色顆粒を持つのが特徴です。
リンパ球、形質細胞優位: 自己免疫疾患、慢性炎症、リンパ腫など。
臨床的意義: これらの炎症細胞のパターンを分析することで、炎症の種類を特定し、さらに詳細な検査(培養、病理組織検査など)や治療法の選択に役立ちます。
4.5. 腫瘍性皮膚病
針吸引生検(FNAC)は、皮膚腫瘤の良悪性や細胞の種類をスクリーニングする上で非常に重要です。
検出法: 針吸引生検 (FNAC)。
顕微鏡所見: 腫瘍の種類によって異なる細胞が観察されます。
肥満細胞腫: 豊富な紫色の顆粒を持つ特徴的な肥満細胞が多数観察されます。顆粒はメサニルブルー染色でより明瞭になります。
リンパ腫: 異型性を示すリンパ球が多数認められます。
腺腫/腺癌: 円形から多角形の上皮細胞が集塊を形成し、悪性であれば核の大小不同、核小体の顕在化、異常分裂像などの異型性を示します。
組織球腫: 若齢犬によく見られる良性腫瘍で、円形から楕円形の細胞がバラバラに散らばって存在します。
脂肪腫: 脂肪滴を豊富に含む脂肪細胞が観察されます。
臨床的意義: FNACで腫瘍細胞が検出された場合、病変の性質を迅速に把握し、切除の要否、術前の治療計画、予後の予測などに役立ちます。ただし、FNACは細胞の採取に過ぎないため、確定診断には病理組織検査が必須となります。
このように、顕微鏡検査は犬の皮膚病の原因を具体的に「見る」ことで、診断の精度を飛躍的に高め、適切な治療へと繋がる重要な情報を提供してくれるのです。
5. 各顕微鏡検査法の詳細と臨床的意義
ここからは、主要な顕微鏡検査法について、より具体的な手技のポイント、検出できる疾患、およびその臨床的意義を深く掘り下げていきます。
5.1. 皮膚掻爬検査:手技のコツと偽陰性の回避
皮膚掻爬検査は、寄生虫性皮膚病診断の基本中の基本です。
対象疾患: ニキビダニ症 (Demodicosis)、疥癬 (Sarcoptic Mange)、ツメダニ症 (Cheyletiellosis)。
手技のコツ:
検体採取部位の選択: 病変が活発で、皮膚の厚みが変わっていない場所を選びます。ただし、痒みが激しい疥癬の場合は、掻きすぎて病変が擦りむけている部位よりも、少し離れた新鮮な病変部(特に耳介辺縁、肘、膝などの薄い皮膚)を選ぶ方が検出率が上がることがあります。
ミネラルオイルの使用: メス刃や皮膚に十分なミネラルオイルを塗布することで、採取した検体が刃から落ちにくくなり、乾燥を防ぎ、寄生虫の動きを抑制して観察しやすくなります。
深部掻爬(ニキビダニ):
病変部を指で強くつまみ、毛包内容物を押し出すように皮膚を盛り上げます。
メス刃の鈍な面で、毛並みに逆らって皮膚がわずかに出血するまで深く、かつ丁寧に掻き取ります。出血は毛包が破綻し、中の内容物が採取できている証拠です。
掻爬範囲は直径1~2cm程度とし、同じ場所を複数回掻き取ります。
表層掻爬(疥癬、ツメダニ):
皮膚が赤くなる程度に、比較的広範囲(5cm四方程度)を優しく掻き取ります。フケや痂皮を多く含むように採取します。
疥癬は数が少ないことが多いため、複数の部位から数枚のスライドガラスを作成することが推奨されます。
スライド作成: 採取した検体を、ミネラルオイルを滴下したスライドガラス上で混ぜ、気泡が入らないようにカバーガラスをかけます。
偽陰性の回避:
不適切な部位の採取: 掻き壊しがひどい場所や、古い病変からは寄生虫が検出されにくいことがあります。
不十分な深さの掻爬: ニキビダニは毛包深部にいるため、深部まで掻爬しないと検出できません。
検体量の不足: 疥癬ダニは数が少ないため、十分な量の検体を広範囲から採取する必要があります。
多すぎるオイルや検体: スライドガラス上のオイルや検体が多すぎると、厚みが出て観察しにくくなります。
観察時間の不足: 特に疥癬ダニは動きが遅く、少数しかいないため、低倍率でスライド全体をくまなく、数分かけてじっくりと観察する必要があります。
治療歴: ステロイドや駆虫薬の使用により、ダニの数が一時的に減少し、検出されにくくなることがあります。
5.2. テープストリップ検査:迅速性と利便性
皮膚表面の感染症診断において、非常に有用で侵襲性の低い検査法です。
対象疾患: マラセチア性皮膚炎、表在性細菌性膿皮症、ツメダニ症、ノミの糞の検出。
手技のコツ:
テープの選択: 無色透明で粘着力が強い一般的なセロハンテープが適しています。市販の粘着力が強すぎるテープは、剥がす際に皮膚を傷つけたり、細胞層を深くまで採取しすぎたりする可能性があるので注意が必要です。
検体採取: 病変部位にテープをしっかりと押し付け、数秒間保持してから剥がします。この操作を同じ部位で2~3回繰り返すと、より多くの検体が採取できます。特に、皮膚のしわの奥や、毛の密集した部位は、テープを指で押し込んで密着させることが重要です。
染色: テープをスライドガラスに貼り付けた後、ディフクイックなどのライトギムザ系染色液に浸して染色します。粘着面に染色液が直接触れるようにし、染色時間を通常よりもやや長めに(数秒~10秒程度)することで、より鮮明な染色が得られます。
観察点: 400倍、必要であれば1000倍(オイル浸)で観察します。マラセチア、球菌、桿菌の形態や、それらが好中球に貪食されているか(貪食像)を確認します。好中球や角化細胞の量も評価対象です。
臨床的意義:
マラセチア: 顕微鏡視野内に多数のマラセチアが認められ、臨床症状と一致する場合、マラセチア性皮膚炎と診断します。
細菌: 細胞内寄生する球菌が多数認められれば、細菌性膿皮症と診断します。ただし、健康な皮膚にも少数の常在菌は存在するため、あくまで臨床症状との整合性が重要です。
5.3. 印圧塗抹・スワブ検査:病変部位に応じた選択
開放性の病変や体腔内の病変からの検体採取に適しています。
対象疾患: 膿疱、びらん、潰瘍、湿潤性皮膚炎、耳道炎、瘻孔、指間炎、腫瘤の表面感染。
手技のコツ:
印圧塗抹: 膿疱や湿潤な病変から検体を採取する際は、病変部を軽くティッシュで拭き、余分な浸出液を除去してから、清潔なスライドガラスを直接病変部に数回強く押し付けます。これにより、深部の細胞や微生物が採取されやすくなります。
スワブ検査: 耳道炎の場合、専用の耳鏡で耳道内を観察しながら、綿棒を病変部に挿入し、数回回転させて耳垢や浸出液を十分に採取します。その後、綿棒の先端をスライドガラスに優しく、かつ均一に転がすように塗抹します。強く押し付けすぎると細胞が破壊されることがあるため注意が必要です。
臨床的意義:
耳道炎: スワブ検査は耳道炎の診断において極めて重要です。細菌(球菌、桿菌)とマラセチアの有無と量を評価し、適切な点耳薬や内服薬の選択に役立ちます。特に、桿菌が多数認められる場合は、緑膿菌感染を疑い、培養・感受性検査に進むべきです。
膿疱: 膿疱の内容物の印圧塗抹は、細菌感染の有無(貪食像の有無)、好中球の性状、まれに非定型マイコバクテリウムや真菌などの特殊な感染症を示唆する肉芽腫性炎症細胞を検出するのに役立ちます。
5.4. 針吸引生検:腫瘤性病変の一次スクリーニング
体表にできた腫瘤の性質を、非侵襲的に調べるための重要な検査です。
対象疾患: 皮下腫瘤、皮膚腫瘤、リンパ節腫脹、唾液腺嚢胞、その他結節性病変。
手技のコツ:
針の選択: 腫瘤の硬さや大きさによって22~25Gの針を使い分けます。通常は22Gの針を使用します。
吸引方法:
陰圧吸引法 (Aspiration): 注射器で陰圧をかけながら針を腫瘤内を複数回異なる方向に刺し、細胞を吸引します。針を抜く前に陰圧を解除することが、細胞が注射器内に吸い込まれるのを防ぐために非常に重要です。
ノンアスピレーション法 (Non-aspiration/Capillary method): 注射器を取り付けず、針のみを腫瘤に刺し込み、針を細かく動かして毛細管現象で細胞を採取します。特に血管に富む腫瘤や、採取が難しい微小な腫瘤に適しています。
塗抹: 吸引した細胞は、スライドガラスに吹き付けた後、別のスライドガラスを用いて血液塗抹の要領で薄く均一に塗抹します。細胞の塊がある場合は、別のスライドで軽く叩きつけるようにして潰してから広げると良いでしょう。複数のスライドを作成し、一部を未染色で残しておくと、後から特殊染色を行う際に役立ちます。
臨床的意義:
良悪性の鑑別: 腫瘍細胞の異型性(核の大小不同、核小体の顕在化、多核細胞、異常分裂像など)や、細胞の増殖パターンから、ある程度の良悪性の判断が可能です。
腫瘍の種類特定: 肥満細胞腫、リンパ腫、組織球腫、脂肪腫などは、FNACで特徴的な細胞が観察され、高い確率で診断が可能です。扁平上皮癌や腺腫/腺癌なども、細胞形態から推測できます。
炎症性病変との鑑別: 膿瘍や肉芽腫といった炎症性病変の場合、好中球やマクロファージ、類上皮細胞などが優位に検出され、腫瘍性病変との鑑別が可能です。
治療計画の立案: FNACで悪性腫瘍と診断された場合、手術範囲の決定、リンパ節転移の評価、術前の化学療法や放射線療法の検討など、治療計画を早期に立てる上で非常に重要な情報となります。
限界: FNACはあくまで細胞診であり、組織の構築や浸潤性まで評価することはできません。そのため、確定診断には病理組織検査が不可欠となる場合が多いです。また、採取部位の偏りや、細胞が少ない検体では診断が困難なこともあります。
5.5. 病理組織検査:確定診断と鑑別診断
顕微鏡検査の中で最も高精度で、最終的な診断に用いられることが多い検査です。
対象疾患: 原因不明の難治性皮膚病、腫瘍の確定診断と予後評価、自己免疫性皮膚病、アレルギー性皮膚炎の組織学的特徴評価。
手技のコツ:
生検部位の選択:
腫瘍: 腫瘍全体を切除可能な場合は「切除生検」を、大きな腫瘍の一部を採取する場合は「切開生検」を行います。採取する際は、病変の中心部だけでなく、病変部と正常組織の境界部分を含めることが重要です。
炎症性皮膚病: 最も活発な病変部位(初期病変、新鮮な丘疹、膿疱、潰瘍辺縁など)を複数箇所(3~5箇所)から採取します。掻き壊しや二次感染がひどい部位は避けるべきです。
パンチ生検: 専用のパンチ(4~8mm)を用いて、皮膚に垂直に押し込み、回転させて組織を採取します。採取後、鉗子で組織を傷つけないように優しく取り出し、ホルマリン溶液に入れます。深部病変の場合、皮下脂肪層まで含めて採取することが重要です。
組織の扱い: 採取した組織は、10%中性緩衝ホルマリン溶液に、組織の体積の10倍以上の量で固定します。組織の乾燥や、圧迫による変形は診断を困難にするため、迅速かつ丁寧に扱う必要があります。
臨床的意義:
確定診断: 腫瘍の良悪性、種類、悪性度、浸潤度を確定し、予後を予測します。自己免疫性皮膚病(例:天疱瘡)や特定の炎症性疾患(例:類肉腫性皮膚炎)の確定診断には不可欠です。
病因の究明: 顕微鏡検査や培養では特定できない病原体(例:非定型マイコバクテリウム)や、組織学的特徴(例:アトピー性皮膚炎における肥満細胞の増加)を検出することができます。
治療法の選択: 診断結果に基づいて、適切な外科的切除範囲、化学療法、免疫抑制療法などの治療方針を決定します。
限界: 侵襲性が高く、全身麻酔や局所麻酔が必要となります。結果が出るまでに時間がかかり、コストもかかります。また、検体採取部位の選択ミスや、二次感染による組織の変化が、正確な診断を妨げることがあります。
5.6. その他の培養検査 (真菌培養、細菌培養)
顕微鏡検査の補助として、病原体の同定と薬剤感受性試験を行います。
真菌培養: 皮膚糸状菌症が疑われるが、顕微鏡検査で確定できない場合に実施します。特に、ウッド灯で蛍光を発しないM. gypseumやT. mentagrophytesの診断に有用です。菌種が特定されることで、より効果的な抗真菌薬を選択できます。
細菌培養および薬剤感受性試験:
対象: 難治性の膿皮症、深部膿皮症、桿菌感染が疑われる場合、治療に反応しない場合。
臨床的意義: 顕微鏡で細菌が確認されても、それがどの菌種で、どの抗生剤に感受性があるかは培養・感受性試験を行わないと分かりません。これにより、適切な抗生剤の選択が可能となり、耐性菌の発生を抑制し、効果的な治療に繋げることができます。特に、メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA/MRSP)のような多剤耐性菌の検出は、治療戦略を大きく左右するため、近年その重要性が増しています。
これらの各検査法を適切に選択し、その利点と限界を理解した上で、総合的に診断に結びつけることが、犬の皮膚病治療において成功への鍵となります。